スマートフォンでAIに質問すると、答えは一瞬で返ってくる。けれども、その計算をしているのはスマートフォンだけではない。遠くにある大きな建物の中で、何千台もの高性能コンピューターが動いている。こうした施設を「データセンター」と呼ぶ。
データセンターでは、計算する機械だけでなく、熱くなった機械を冷やす装置も電気を使う。AIを使う人が増え、文章だけでなく画像や動画も作るようになると、必要な計算も増える。私たちがAIを使うたびに、見えない場所で電気が使われている。
では、その電気をどう用意すればよいのだろう。最近は、太陽光や風力に加えて、原子力発電や小さな原子炉を使う案が注目されている。ただし、小さな原子炉が今すぐ大量に使えるわけではない。この記事では、期待される理由と、実現までに残る問題を分けて考える。
AIが使う電気はどれくらい増えるのか
国際エネルギー機関は、世界各地のエネルギーを調べる国際的な組織だ。英語名の頭文字を取ってIEAと呼ばれる。IEAは、世界のデータセンターが使う電気を、2025年の485テラワット時から2030年には約950テラワット時へ増えると予測している。
テラワット時は、発電したり使ったりした電気の量を表す大きな単位だ。950テラワット時は、2030年に世界で使われる電気全体の約3%に当たるという見通しである。これは未来を言い当てた数字ではない。AIの広がり方や機械の省エネ性能、建設の遅れによって変わる予測だ。
データセンターには、昼も夜も安定した電気が必要だ。計算が急に増えれば、使う電気も短い時間で変わる。停電するとサービスが止まるおそれがあるため、予備の設備も必要になる。
発電所を建てるだけでも足りない。電気を遠くへ運ぶ送電線や、電気を使いやすい状態へ変える変電所も必要だ。発電できる場所と、データセンターを建てたい場所が離れていれば、途中の設備が足りなくなることもある。
なぜ原子力発電が候補になるのか
原子力発電は、ウランなどの燃料から熱を取り出し、その熱で水を蒸気に変えて発電する。天気や昼夜に左右されにくく、長い時間続けて発電できる。このため、常に電気を必要とするデータセンターと相性がよいのではないかと考えられている。
燃料から取り出せるエネルギーが多いので、同じ量を発電する設備を比べると、使う土地を小さくできる可能性もある。ただし、原子炉の建物だけを見て「場所を取らない」とは言えない。安全を守る設備、警備、冷却、送電、使い終えた燃料の管理にも場所が必要だ。
いま特に期待されているのが「小型モジュール炉」だ。英語ではSmall Modular Reactorといい、頭文字からSMRと呼ばれる。従来の大きな原子力発電所より原子炉一基を小さくし、同じ設計の部品を工場で繰り返し作る考え方である。必要に応じて複数を組み合わせることも想定されている。ただし、大きさや作り方、発電量は設計ごとに違う。
データセンターの近くで発電する案
小型原子炉をデータセンターの近くに置き、蓄電池などと一緒に使う研究もある。発電設備、蓄電池、電気を使う建物を狭い地域の中で結ぶ仕組みを「小さな電力網」と呼ぶ。英語ではマイクログリッドという。外の大きな電力網に問題が起きても、必要な設備だけは動かし続けることを目指す仕組みだ。
米国エネルギー省は、小型原子炉、熱をためる装置、ほかの発電方法を組み合わせる研究計画を公開している。そこでは、停電への強さや、安定した電気を送れるかを実際に確かめる必要があるとしている。つまり、すでに完成した仕組みが広く売られているのではなく、これから試す課題が多い。
小型でも、すぐ簡単に作れるわけではない
IEAの2025年の報告では、データセンター向けの電気に小型原子炉が加わり始めるのは2030年ごろからと見込まれている。それまでの電気の増加には、太陽光や風力などの再生可能エネルギー、天然ガス、いまある電力網が大きく関わる。今後数年の電気を、小型原子炉だけで用意する計画ではない。
一つ目の問題は、安全を確かめる手続きだ。原子炉は、設計、建設、運転、事故への備えを専門の機関が調べる。米国では原子力規制委員会という機関が新しい審査方法を整えている。それでも、申請を出しただけで運転できるわけではない。建てる場所や原子炉ごとの確認が残る。
二つ目は、最初の数基を作る難しさだ。同じ物を何度も作れば、作業に慣れて安くなる可能性がある。しかし、その利点が出るには、十分な注文と経験が必要だ。最初は設計の直し、工事の管理、働く人の訓練にお金と時間がかかる。
三つ目は、必要な物をそろえることだ。原子炉の燃料を作る施設が要る。大きな金属部品や、安全だと証明できる材料も要る。専門の技術を持つ人も必要だ。こうした物や人を、必要な場所へ切れ目なく届ける仕組みを「供給網」という。米国エネルギー省の支援計画も、設計、安全審査、供給網、建設場所の準備を課題に挙げている。
値段もまだ大切な問題だ。原子炉が小さいからといって、必ず電気が安くなるわけではない。建設費だけでなく、お金を借りる費用、運転、使い終えたあとの解体まで含めて比べる必要がある。
2030年代に向けて何を見ればよいか
「AIには原発が絶対に必要だ」と決めつけるのも、「すぐ作れないから小型原子炉には意味がない」と決めつけるのも早い。近い将来には、いまある電力網を強くすることが先に役立つ。太陽光や風力、蓄電池を増やす方法もある。データセンターを電気に余裕がある地域へ建てたり、計算する時間をずらしたりする工夫もできる。
そのうえで小型原子炉は、2030年代の選択肢の一つになる可能性がある。見るべきなのは、企業が発表した計画の数だけではない。安全審査を終えたか。工事を始め、予定どおり完成できたか。実際にいくらかかったか。安定して運転できたか。燃料を続けて用意できるか。
AIのために小型原子炉が必要になるかどうかは、まだ決まっていない。電気を安定して作れるという長所だけでなく、安全、時間、費用、必要な物をそろえる力まで確かめて、初めて答えが見えてくる。

