冷蔵庫やエアコンを買うとき、「省エネ」という表示を見たことがあるだろう。新しい製品は、昔より少ない電気で同じ仕事ができる。AIを動かすコンピューターも同じで、一回の計算に使う電気は急速に少なくなっている。
ところが、AIのために必要とされる電気の合計は増えている。理由は、一回分が省エネになる速さだけでなく、AIを使う人、使う回数、させる仕事の重さも増えているからだ。少ない電気でできるようになった仕事を、以前よりずっと多く行えば、合計は大きくなる。
この問題は、毎月の電気代や発電所だけの話ではない。AIを動かす大きな施設が近くに建つと、その地域の送電線や変電所に負担が集まる。この記事では、「一回に使う電気」と「社会全体で使う電気」を分けて考える。
一個が省エネでも、全部では増える
たとえば、消費電力が半分の電球へ交換したとする。一個だけなら、使う電気は半分になる。しかし、街全体で電球の数が3倍になれば、使う電気の合計は交換前より増える。AIでも同じことが起こりうる。
国際エネルギー機関は、世界のエネルギーを調べる国際的な組織だ。英語名の頭文字からIEAと呼ばれる。IEAの2026年の報告によると、近年はソフトウェアと半導体の進歩によって、一つのAI作業に必要なエネルギーが一年ごとに少なくとも10分の1以下になるほど急速に減ってきた。
短い文章の質問なら、同じ短い時間だけテレビを動かすより、使う電気が少ないことが一般的だという。それでも合計が増えるのは、AIに頼む仕事が増え、仕事の中身も変わっているためだ。
AIへの質問は、どれも同じ重さではない
短い文章を一つ作る仕事と、長い動画を作る仕事では、必要な計算が違う。AIが答えを作るために行う計算を「推論」という。名前は難しいが、入力された言葉や画像をもとに、次に何を出すかを何度も計算する作業のことだ。
最近は、AIが一つの指示を受けたあと、調べる、文章を作る、道具を使う、結果を確かめる、といった複数の仕事を続ける使い方も増えている。このように何段階もの作業を進める仕組みを「AIエージェント」と呼ぶ。利用者が一回ボタンを押しただけでも、裏側ではたくさんの計算が行われる場合がある。
IEAは、動画生成、複雑な推論、AIエージェントのような仕事が、短い文章を作る仕事の数百倍から数千倍のエネルギーを使う場合があるとしている。「AIへの質問一回は何ワット時か」という数字だけでは、簡単な質問と長い動画を同じものとして数えてしまう。
省エネになると、一回の利用料金も下げやすくなる。すると、以前なら高すぎてできなかった使い方が広がる。文章を一案だけ作る代わりに十案を比べる。静止画一枚ではなく、動画を何本も試す。会社の一部の人だけでなく、大勢が毎日使う。省エネで生まれた余裕が新しい利用に回れば、合計の電気は減らない。
世界全体では小さくても、一つの地域には大きい
AIの計算は、多くの場合「データセンター」で行われる。データセンターとは、高性能コンピューターを何台も置き、計算やデータの保存を行う大きな施設である。機械を冷やす装置や、停電に備える装置にも電気が必要だ。
IEAは、世界のデータセンターが使う電気を、2025年の485テラワット時から2030年には約950テラワット時へ増えると予測している。約2倍である。2024年の時点では、データセンターが使う電気は世界全体の約1.5%だったと見積もられている。
世界全体の割合だけを見ると、それほど大きく感じないかもしれない。だが、データセンターは世界中へ均等に建てられるわけではない。高速な通信回線、広い土地、大量の電気がある地域へ集まりやすい。
これは、国全体には十分な水があっても、一つの街の水道管が細ければ、大量の水を一度に送れないのと似ている。電気も、発電しただけでは使えない。遠くへ運ぶ送電線が要る。電圧を場所に合うよう変える変圧器や変電所も要る。こうした設備をまとめて電力網という。
データセンターは早く建ち、電力網は時間がかかる
IEAの「Electricity 2026」という報告では、送電線などを計画し、許可を取り、完成させるまで5年から15年かかる場合がある。一方、データセンターは1年から3年で建てられる場合がある。電気を使う建物のほうが、電気を運ぶ設備より先に完成してしまうことがある。
世界では、合計2500ギガワットを超える計画が、電力網へつなぐ順番を待っている。この中には発電所や蓄電池の計画もあり、全部がAIやデータセンターではない。それでも、電力網の工事が多くの計画に追いついていないことは分かる。
設備そのものも、すぐには手に入らない。米国エネルギー省は、変圧器に使う部品が足りず、注文してから届くまで長くかかる問題を報告している。新しい発電所ができても、送電線や変圧器がなければ、必要な場所へ電気を届けられない。
「AI一回の電気」だけでは足りない
一回のAI作業が使う電気を測ることは大切だ。どの機械や計算方法が省エネかを比べられる。しかし、社会への影響を知るには、それだけでは足りない。
一回に使う電気、使った回数、仕事の種類を分けて見る必要がある。データセンター全体が使った電気も必要だ。どこに建っているか、電気が足りなくなりやすい時間にどれだけ使ったかも重要である。IEAは、正確な見通しを作るため、AIを提供する企業が電気の使い方をもっと決まった形で公開する必要があるとしている。
対策も一つではない。より省エネな半導体とソフトウェアを使う。仕事に必要以上に大きなAIを使わない。急がない計算は、電気に余裕がある時間や地域へ移す。冷却を改良する。送電線を安全な範囲で有効に使い、必要な場所は増強する。蓄電池で急な変化をやわらげる方法もある。
これから注目すべきなのは、「一回分のAIが省エネになった」という数字だけではない。利用の増え方が、省エネになる速さを上回っていないか。重い仕事が増えていないか。どの地域へ負担が集まっているか。この三つを一緒に見ると、AIが使う電気の合計が増える理由が見えてくる。

